それ、僕が図解します。

世の中のビジネスモデルやいろんなものの複雑な仕組みを、できるだけわかりやすく説明してみたいと思います。主な話題はネットビジネス、不動産、オタクネタ、時事ネタなど。中途半端な説明や、図を使ってないものもあるかもしれませんが、温かい気持ちでお許しください。

ふるさと納税の問題点について、まとめてみました。

  税金を納めると数々の「お礼の品」が送られてくることで大人気のふるさと納税ですが、2015年から寄付金額の上限が引き上げられた他、申告手続きも簡単になり、より人気が加熱しています。

 僕も以前に書いたことがあります。その時は納税者にとってお得で、直接的に地域活性に繋がるいい施策だと思っていました。しかし、今年もやろうとしてみて、「お礼の品」を吟味しているうちに妙な違和感を覚えたので書いてみようと思います。

「ふるさと納税」が歓迎される理由

 「ふるさと納税」では大抵の場合、地元の特産品が送られてきます。そのため、下記のような構造になっています。

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 都市部のふるさと納税をしている市民は、2,000円の自己負担で豪華なお礼の品がもらえることでHappyです。地方自治体はこれまで入ってこなかった収入が入ってきてHappyです。お礼の品は自治体が地元の事業者から購入するので、お金が回り、住民サービスも向上することで地方経済にとってもHappyです。このように関係する人全員がHappyになる、というのが「ふるさと納税」が歓迎される理由です。自治体によっては数億円の寄付を集め、昨年度の税収から倍増した、というところもあるようです。

 「自分たちの努力によって税収が増やせる」というのは、地方自治体の人たちにとって、非常にやりがいのあることなのだと思います。

「ふるさと納税」で笑う人、泣く人

 笑う人がいる一方で、泣く人もいます。

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 まず、都市部の市民が本来住んでいるところに払うべき住民税を違う自治体に払うことで、相対的に寄付しなかった市民にかかる住民サービスの負担割合は大きくなります。ここでまず不公平があります。

 地方自治体では、ふるさと納税の品を選ぶ担当者は利権を得ますが、そうでない担当者はただ忙しくなるだけです。

 事業者にとっても、選ばれなかった事業者や、恩恵がなかった公共事業にとっては、地元の税収が増えたのにその恩恵を受けないことになります。人気の品は圧倒的に「肉」ですが、肉牛の産地では当然複数の畜産農家がいます。お礼の品に選んでもらえなかった畜産農家は不公平感を感じるでしょう。

 そして、寄付の出来無い年収の少ない人も影響を受けます。この制度には逆進性を加速させる仕組みがあります。

激しい「逆進性」

 年収300万円の人が寄付できる上限額は31,000円が目安ですが、給与収入が2,000万円ある人は約60万円が目安となります。収入に対する割合としては、1%と3%となり、3倍の開きがあります。

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 年収が増えると、さらにその格差は広がります。

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 年収1億円の場合、年収の4.5%まで寄付の上限が広がります。(この金額目安は総務省のデータを参照しました)

 『年収が多い人ほど、沢山寄付が出来る』という事自体は、悪いことではありません。むしろノブレス・オブリージュとして歓迎されるべきものです。

 まずいのは、これらに対して多額のお礼の品を還元することです。年収1億円のひとがどのぐらいいるのかわかりませんが、こういう人たちを見込んで、100万円とか300万円の寄付金プランを用意している自治体すらあります。まさに、高額納税者の取り合いになっています。

 高額納税者を獲得できた自治体はハッピーですし、出来なかったところは、獲得できるよう、次年度に向けてより過激な還元プランを追い求めるようになります。

 税金は、富の再配分の最も基本的な機能です。そこに対して、4.5倍以上にも及ぶ格差を生み出す仕組みは、税の主要な機能を損ねているように思います。

容易に転売可能な「お礼の品」が沢山ある

 埼玉県鶴ヶ島市には、鉄道模型で有名なKATOの工場があります。その関係で、KATOの鉄道模型セットが「お礼の品」に設定されています。他にもいわゆる「型番商品」を提供している自治体は沢山あります。

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 カメラや鉄道模型を経費として申告できるのは、それらを使った業務をしている人ですが、これらホビーの品をお礼の品としてもらうことで、実質的に経費で買ったのと同じ効果が得られます。

 さらに、型番商品は、Amazonマーケットプレイスやネットオークションで簡単に転売することが出来ます。受け取ったお礼の品を転売することで、税金そのものを取り返すことも出来ます。

 上述の逆進性と含め、年収の多い人ほど、多くの還元を得ることができ、国の制度として疑問を感じる点です。

じゃあどうしたらいいのか?

 一つには「お礼の品」を一切廃止するか、残すとしても寄付金額の10%程度に上限の目安を作ることでしょう。「ふるさと納税」を安定的な財源とするために、継続寄付については上限を緩和してもいいかもしれません。

 また、iPadのように海外企業の商品を提供するのはもってのほかですが、簡単に換金できる型番商品は廃止したほうがいいでしょう。

 さらに、地域通貨や宿泊利用券などを提供する形であれば、高額納税者の方々が実際にその土地を訪れることが増える可能性があります。それは地域経済の活性化に役立つかもしれません。人気アイドルの握手会を開いて、握手券を配るのもいいかもしれません。むろん、転売対策は必要ですが。

 何よりも大切なのは、各地方自治体が、それぞれの地域が抱える課題に対して、どう解決しようとしているのか?そのために、どう財源を確保し、寄付をしてくれる人にどういう貢献をして欲しいのか。それをはっきりとメッセージとして打ち出し、施策として反映することではないか?と思います。

(追記)ふるさと納税については、全国のまちづくりに詳しいまちづくり事業家の木下さんも記事を書いていらっしゃいます。気になる方はこちらもどうぞ。

ふるさと納税ブームに潜む地方衰退の「罠」 | 地方創生のリアル | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

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