それ、僕が図解します。

世の中のビジネスモデルやいろんなものの複雑な仕組みを、できるだけわかりやすく説明してみたいと思います。主な話題はネットビジネス、不動産、オタクネタ、時事ネタなど。中途半端な説明や、図を使ってないものもあるかもしれませんが、温かい気持ちでお許しください。

西野さんの話はコンプライアンスというより、コーポレート・ガバナンスの問題だったのでは?

絵本作家の西野さんが、エボラブルアジアさんの子会社のCIOに就任して3日後に辞任されました。

簡単な経緯など。西野さんにコンプラ上の懸念??

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社外監査役の森田氏に、「コンプラ上の懸念」を指摘され、それに対して違和感を感じたので質問したところ、思うような回答が得られなかったので、やめることにした、ということだそうです。

西野さんに対して「コンプラ上の懸念がある」とするのは僕も違和感があります。コンプライアンスといえば「法令遵守」のことで、西野さんが違法行為を犯しそうであったり、反社会的勢力との付き合いがあるかのような見え方です。そんなことはないだろう、と。

一方、西野さんと言えば「スケジュールを仮押さえされると激怒する」という方です。

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西野さんがそういうスタンスで仕事をされることは一向にかまわないのですが、企業で役職を務めていただくにあたって、このスタンスはコンプライアンス上は問題なくても、ガバナンスとして、とてもやりにくい状態だろうな、と思います。

コーポレート・ガバナンスとは何か?

株式会社は利潤を上げるという目的を持っています。株主、役員、従業員等はそれぞれの責任において、会社の価値を上げるための努力をしなければなりません。しかし、会社にはトラブルはつきもの。トラブルを未然に防ぐため、あるいは、トラブルがあったときの責任の所在を明らかにするために必要なルールを整備することを「コーポレート・ガバナンス」といいます。

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会社は利潤を追求するものですが、その過程で違法なことや不正なことがあってはいけません。なので、コーポレート・ガバナンスには「コンプライアンス(法令遵守)」が必ず含まれます。

西野さんが会社のために良かれとおもってやったことが、マイナスになることもある

例えば、西野さんが会社のためにスゴイアイデアを思いついたとします。それを、一刻も早く伝えるために、ツイッターで発表したとします。しかし、実はそれが会社側が水面下で進めていたことと一部かぶっており、西野さんの発表により、すべてがぶち壊しになってしまった、とします。

その時、会社は、西野さんに対してどういう責任を求めることができるでしょうか?

事件の内容や損害の範囲、初動対応やその後の経過によって、色々変わってくるでしょう。

しかし、一つ確実に言えるのは、「重大発表については、こういうプロセスを通じて決定し、発表を行う。それ以外のものについてはすぐに否定する発表をする」といったルールが決められており、そのルールが公表されていて、なおかつその通り実行されれば、混乱は最小限に留めることができるはずです。また、正規のプロセスを経て発表しなかったことに対する責任も明らかにすることができます。これがコーポレート・ガバナンスの効いている状態、です。

コーポレート・ガバナンスを見直す必要はあった

西野さんぐらい影響力のある方だと、何かをプラスにするのと、同じぐらいの力でマイナスを生み出してしまうことも想定できます。仮に本人に悪意がなかったとしても。政治家や芸能人だけではなく、Youtuberなどもたまに炎上しますが、それも影響力のなせるわざです。

そういうことが予想されるなら、会社として、責任の所在や事後対応のプロセス、通常の指示命令系統といったものが必要なのは間違いありません。

今回、西野さんをCIOに任命した理由はよくわかりませんが、これまで会社になかったものを求めての依頼であったことは間違いなく、多少は会社のルールから逸脱するものも期待していたかもしれません。そうであればなおのこと、コーポレート・ガバナンスの観点から、ルールの再確認をしておくのは当たり前の話です。

会社のルールを守る「忠実義務」とは?

コーポレート・ガバナンスは、管理部門の仕事であり、内部監査の仕事であり、監査役の仕事です。今回、森田さんが、西野さんがCIOとして入ってくるにあたって、ガバナンスが気になったのは当然のことといえます。

一方で「コンプライアンス」は一般的には法令遵守と訳されますが、「コーポレート・コンプライアンス」として、いわゆる違法行為・不正行為だけではなく、「会社のルール」の違反まで含めて考える、といった見方もあります。

違法ではないが会社のルール違反とは、定められた手続きを省略した、とか、命令に従わなかった、というものです。

重要な役職の人に、「来週の火曜日か水曜日に重要な会議をする予定なので、スケジュールを仮押さえさせてください」と、伝えたら、「仮押さえは断る!決まったら教えてくれ!ただ、すでに他の用が入っていたらそちらを優先させてもらう」と言われてしまうのでは、会議が出来ません。

なので、常識的な範囲で調整する他に、取締役には「忠実義務」や「善管注意義務」というのが課せられています。取締役でない人でも、重要な役職についてもらうには、やはり自分の利益よりも会社の利益を優先するように忠実にしてもらいたいというのが通常のルールです。

森田さんの言葉は誰に向けたものだったのか?

しかし、会社のルールに合わないから、と人を拒むのでは変化を起こせません。むしろ、大胆な変化を起こすには、これまでのルールに合わない人を連れてくるべきです。ルールの方を変えればいいんです。

「スケジュールの仮押さえは許しません」という人を重要な役職につけるには、どういうルール変更をしたらいいのか?あんまり考えたくないですが、大変そうです。

 したがって、森田さんの上記発言は、西野さんに向けられたもの、というよりも、会社の取締役会&監査役に向けられた言葉のような気がします。

そもそも任命責任が。

さて、請願して重要な役職に来ていただいた方が3日で辞めてしまったことについて、コーポレート・ガバナンスに沿って、誰かに責任があったかを明確にする必要があります。そうでないと、また同じことが起こる可能性があるからです。

今回の場合は、誰が西野さんを推薦し、何を期待して依頼し、どういう過程を経て任命に至り、発表に至ったのか?というプロセスもはっきりする必要があります。
西野さんは迷惑をかけないためにも早く辞めた、と、おもっているかもしれませんが、早く辞めたことで、すでに誰かの責任問題になってしまいました。難しいところです。

通常、CXOと言われる役職は、それが商法上の取締役ではなくても、重要な役職であることに変わりありません。

重要な役職であるなら、事前に社外監査役が知らないまま任命されてしまうのは問題ではないでしょうか?

もしくは、会社側は「別に監査役に伝えるほどの重要なことでもない」と思っていた可能性があります。もしそういうことなのであれば、これは西野さんにとってはちょっと残念というか、まあ、そういうものだった、という話ですね。

任命責任等、コーポレート・ガバナンス上の問題を明らかにした、という点で、今回、ご両人はいい仕事をしたのではないでしょうか?