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それ、僕が図解します。

世の中のビジネスモデルやいろんなものの複雑な仕組みを、できるだけわかりやすく説明してみたいと思います。主な話題はネットビジネス、不動産、オタクネタ、時事ネタなど。中途半端な説明や、図を使ってないものもあるかもしれませんが、温かい気持ちでお許しください。

観劇感想[シス・カンパニー 三人姉妹] 今の時代の絶望とはなんなのか。

行ってきた 図解します

あらすじ

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 プローゾロフ家の三姉妹は、幼い頃はモスクワで裕福な暮らしを送っていましたが、昨年、父を亡くし、今ではロシアの寒村で慎ましやかな生活を送っています。「いつかまた、モスクワに戻ってまたあの頃のような幸せに満ちた暮らしをしたい」と願っていたとき、村に軍人たちがやってきます。彼らと恋に落ち、モスクワへと連れていってくれることを期待する三姉妹でしたが、それぞれの夢は叶うことなく、軍人たちは街を去っていくのでした。 

時代背景

 1900年、帝政ロシア末期。栄華を極めた皇帝の世は最盛期を過ぎ、社会主義へと向かって社会が大きく動きつつありました。貴族は徐々に権力を失い、農民は資本家に対する不信感を募らせ、立ち上がろうとしていた革命前夜の時代のお話。

テーマ

 夢や希望を失っても、人はなぜ生きねばならないのか? 

人間関係

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 三人姉妹はモスクワに行くことを夢見ています。長男のアンドレイは下品な女、ナターシャと結婚しますが、三姉妹とは常に喧嘩をしています。しかもナターシャは村の実力者と不倫をしています。次女マーシャは夫のクイルギンとの暮らしにうんざりしており、モスクワ出身のヴェルシーニンと不倫の恋に落ちます。三女のイリーナには、トゥーゼンバフ男爵とソリューヌイ大尉が想いを寄せています。長男が家を抵当に入れてしまったことで、イリーナはモスクワに行くことを諦め、自分を愛してくれるトゥーゼンバフ男爵と結婚することを決めましたが、男爵は偏屈な男ソリューヌイに喧嘩を売られ、決闘をすることになってしまいます。

今、この作品をやる意味

 三姉妹は夢破れ、不幸に見舞われることで、生きることに絶望し、「私達が生きる意味ってなんなの?」と問います。

 が、考えてみれば、この三姉妹は裕福な生活を送っており、しっかりとした仕事も持っており、悩みを共有できる姉妹もいます。「モスクワに戻る」という夢も、もし仮にモスクワに戻れたところで、子供時代に戻れるわけもなく、あの時と同じ幸福感はそこにはありません。彼女たちの願いはそもそもが「ないものねだり」でした。 

 結局、「贅沢な絶望」なのです。今の世の中はどうでしょうか。例えば、親とは生き別れ、軽い知的障害の為に人に騙されて返す必要のない借金を背負わされた上に、風俗で働くことを強いられ、子どもも出来てしまっていてどうしていいかわからない。先が見えない。という経済的にも精神的にももっともっと追い詰められているような人、というのがいます。『絶望の種類』『絶望の深さ』は、この三姉妹の時代に比べれば、はるかに多く、はるかに深いように思います。

 作中、ヴェルシーニン中佐は言います。「将来、100年後、きっと世の中は良くなってる。もちろん、その頃私達は生きていないけれども。」と。当時は共産主義前夜で、新しい社会の到来に期待が満ち溢れていました。しかし、その共産主義は100年後の幸福を持ってきてはくれませんでした。

 有史以来、人間は「今日よりも明日を良くしよう」と頑張ってきました。宗教や、芸術、文学のみならず、多くの営利企業でさえ、その理念に「◯◯を通じて世の中を豊かに」といったものを掲げ、その目的に向かって進んでいる人達は沢山います。

 歴史上、多くの人々、沢山の天才たちが世の中を良くしようと、頑張ってきました。それで世の中はどれだけ良くなったでしょうか?

 人類の歴史は戦争の歴史でもあります。20世紀中に戦争は終わりませんでした。21世紀中に地上から戦争が無くなる可能性もいまのところ低そうです。(何しろ、中東のユダヤ人問題だけでもう2,000年もやってます。)終わるどころか、むしろ複雑化・泥沼化しているような気すらします。

 

 今回、現代的なセリフ回しや小さな表情は豊かで魅力的でしたが、全体的には抑制の効いた控えめで原作に忠実な演出でした。演出家から、「100年前はこの程度で『絶望』が表現できたが、今の世の中、この程度だと本当の『絶望』じゃない。『絶望』って何なんだっけ。人が動けば動くほど、状況どんどん悪くなってね?」と、問いかけられているような、そんな気がしました。

感想

 舞台上、上手と下手に一つづつ大きな柱が床から天井までグッと伸びており、まるで、絵画の額縁のような効果を醸し出しています。「人が生きる意味」という文学的なテーマや、丁寧に作りこまれた舞台上の家具、裕福な家庭や軍人の服を表現した華麗な衣装などと相俟って、「動く油絵」のような美しい芸術作品に仕上がっています。

 でも、決してテレビや映画で見ているような「画面の向こう側」のような感じではありません。観客がいい反応をして、役者のテンションがあがる、という瞬間が何度もありました。

 堤真一さんは、すごく華のある役者さんですが、今回の役は、彼のキャラクターに良く合った魅力的な人物なので、観客は何度も笑いを引き出され、そのたびに、堤さんの表情がキラっとするのが分かります。

 クライマックスで、宮沢りえさんが舞台の奥にフッと現れた時、その姿形の美しさ、切なさに観客は一同に息を呑み、そこから一気に舞台の温度が上がりました。まさに、観客とキャストの一体感を楽しむことができた瞬間でした。

 そして、とにかく、蒼井優さんが可愛いです。もう、めちゃくちゃ可愛いです。誰でも恋に落ちると思います。もともと魅力的な女優さんだとは思ってましたが、ほんとに可愛いです。この役は市川由衣さんにはちょっと難しそうです。(石原さとみさんならできるかも。役の印象は変わりそうだけど。)

 あと、最後に、この舞台には、僕と同じ頃に京都で演劇をやっていた猪俣三四郎さんが出演しています。彼の「火事場ダンス」は必見です。

概要

企画・製作 シス・カンパニー
作 アントン・チェーホフ
演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
東京公演 Bunkamuraシアターコクーン 2015年2月7日〜3月1日
大阪公演 シアターBRAVA! 2015年3月5日〜3月15日
チケット チケットぴあ ローソンチケット

原作

 読まなくても分かりますが、読んでおいた方がより楽しめると思います。読まずに見に行く場合、上の「人物相関図」だけは持って行って下さい。

ワーニャ伯父さん/三人姉妹 (光文社古典新訳文庫)

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